ライブクリエイティブと
ドコモデータを活用した広告配信で、
効果の最大化を狙う!
Tailor Appが目論むライブコマース進化論とは
株式会社Tailor App
- 募集テーマ:新規ファンの獲得やファンの育成に繋がる、ファンマーケティングソリューションの創出
- 取材日:2024/07/31
ドコモ マーケティングイノベーション部が取り組むオープンイノベーションプログラム。今回は「ライブコマース」の企画・運営を主幹事業とする株式会社Tailor App(以下、Tailor App)さまの事例をご紹介します。ドコモが有する多種多様なデータを活用し、ライブコマースの視聴者をプロファイリング分析。その分析結果とライブクリエイティブをデジタル広告の配信に用いることで、広告効果を最大化させる日本流ライブコマースの勝ち筋を、顧客PoC(実証実験)で検証しました。
Tailor App代表取締役社長の松村夏海さん(写真左)と営業部マネージャーの佐藤京士郎さんにお話を伺います。
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松村 夏海 さん
代表取締役社長
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佐藤 京士郎 さん
営業部 マネージャー
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自社の課題をオープンイノベーションで解消し、ライブコマースを進化させたい
―はじめに、Tailor Appさまの事業概要について教えてください。
松村:当社は、ライブコマースを軸に事業展開しています。主幹事業は大きく3つあり、ひとつはライブ配信自体の企画・運営です。商材に適したプラットフォーム選定から台本制作、出演者のキャスティング、撮影ディレクションまでを一気通貫で担当し、“売れる”ライブ配信を実現しています。
2つ目は、Instagramのライブ分析・DM自動送信SaaS「sns force」の提供です。ライブコマースの動画配信プラットフォームとして最も多く利用されているのがInstagramのインスタライブですよね。しかし、「そのままタップして商品の購入ができない」「視聴者のユーザーアカウントを取得できない」「ライブ配信中に投稿されたコメントを記録できない」など、商品の売り手側には少々不便な仕様になっています。
「sns force」は、こうした仕様上の問題点を解決するサービスで、コメントをトリガーとして視聴者にDMを自動送信して購買導線を構築します。例えば「商品名」や「欲しい」といったコメントを投稿したユーザーに、ECサイトのURLやクーポンを自動送信できます。さらに、1分ごとの視聴者数推移やコメントデータを取得することで、視聴者の反響や感情を可視化でき、定量・定性両面でライブ配信の効果分析が可能です。
そして3つ目は、企業向けのリスキリングプログラムの提供です。SNSやライブコマースのマーケティング活用から、基本的なPCスキル、chat GPTの応用、インバウンドへの接客指導まで、自社開発のeラーニング研修メニューで幅広いリスキリングのニーズに対応しております。
―今回、ドコモのオープンイノベーションプログラムへ参加する決め手は、どういった点だったでしょうか。
松村:ライブコマースを進化させる仮説検証に絶好の機会だと思いました。というのも、これまでのライブコマースは、テレビショッピングと同様で、「ライブ配信中にどれだけ商品が売れるか」に焦点が当てられていました。
実際に当社でも、1時間のライブ配信で脱毛器を1,500万円分も販売し、お客さまに大変感謝いただいたこともあります。しかし、この数字は1回の放送で数億円の売上を叩き出すこともあるテレビショッピングに比べると、かなり小さなものです。
ライブコマースをより多くの購買につなげるには、どうすればいいのか?テレビショッピングにない価値とは何か?そんなことを考え続け、自分なりに導き出した答えが「ライブ配信中ではなく、ライブ配信後に焦点を当てる」ことでした。
具体的には、ライブコマースの“双方向性コミュニケーション”という特長を活かし、「ライブ配信で視聴者データを取得し、その後の広告配信に活用する」構想です。
―なるほど。配信対象として有用なデータの取得が肝になりそうですね。
佐藤:そうです。ただ先ほども申し上げたとおり、現実的にはInstagramをはじめとするライブ配信のプラットフォーム上で取得できるデータには限りがあります。
そんな課題を相談したところ、「ドコモの持つデータを活用すれば、ライブ視聴者の解像度を上げることができる。また、ライブ配信を接点としたターゲティングや、ライブ配信動画をもとにしたクリエイティブの広告活用により、成果の最大化を狙えるのではないか」と助言いただいて。
さらに、小売店の店頭にデジタルサイネージを設置しライブ動画を配信したり、ジオターゲティングして店舗に集客したり。そういったライブコマースの先にある将来的な構想もご相談したところ、「おもしろいですね。ドコモとしてもリテールDXは積極的に進めていきたい領域です」とこちらのアイディアに共感して頂けたんです。
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PoCを通じて、ライブ広告クリエイティブの新たな価値を発見
―では、実際のPoCの成果について教えてください。
松村:今回、当社の既存顧客である株式会社ファイブフォックスさまのアパレルブランド「COMME CA ISM」と、株式会社 MTGさまのスキンケアブランド「ON&DO」の2ブランドでPoCを実施しました。
まず当社主導でそれぞれのブランドのライブ配信を行い、「sns force」を利用して視聴者を各LP/ECサイトに誘導します。来訪者のデータとドコモが有するデータを掛け合わせることで、どんな方がライブ配信からLP/ECサイトに遷移しているのかプロファイリング分析をしていただきました。
後日、ライブ配信で得られたコメントやエンゲージメントグラフを元にライブ動画を編集し、広告クリエイティブを制作。そして、プロファイリング結果をもとに、視聴ユーザーの可視化およびセグメント設計を行い、広告配信を実施しました。
ドコモのデータには、統計化されたユーザーの年齢や性別といった基本情報のほか、購買履歴、位置情報、趣味・嗜好といったアンケート情報も含まれますので、さまざまなセグメント設計が可能になります。また、サイト訪問者のデータをもとに、類似ターゲティングにも挑戦しました。
ドコモソリューションはこちらこのような実証実験の結果、「ON&DO」ではライブ配信動画をもとに作成したクリエイティブのほうがユーザーの反応が良く、既存のクリエイティブよりCTRは2倍、CPAは41%で獲得できました。定性面では「ON&DO」が設定している顧客ペルソナとライブ配信の視聴者に乖離がないことがわかり、消費行動や趣味嗜好など顧客の深掘りもできました。
一方、「COMME CA ISM」では、既存クリエイティブとライブ広告クリエイティブのCVRやCPAに大きな差はありませんでした。そもそも同社の既存クリエイティブは、特定の商品に購買を促す一方で、ライブ広告クリエイティブは、モデルによるトータルコディネートでブランド自体へ興味を喚起する、という目的の違いがありました。
つまり、ブランド訴求目的のクリエイティブでも、既存クリエイティブと同等の購買につなげられることがわかりました。両クリエイティブのCVRが同程度なら、長期的には購買と同時にブランド理解や愛着も深められるライブ広告クリエイティブのほうが有用、といった見方もできます。
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ドコモと一緒に切り拓く、
ライブコマースの未来―今回のPoCでライブコマースの未来が少し広がったような気がします。今後、ドコモとの共創で実現したいことを教えてください。
佐藤:共創の利点を整理すると、大きく3つあります。1つ目は、ドコモが有するデータを活用することで、より精度が高い広告配信ができること。2つ目は、創業まもないスタートアップではまだ不足している信用力を、ドコモというブランドが補強してくれること。そして3つ目は、自社単独では不可能な速さでビジネス拡大できることです。
そして、当社の事業拡大の方向性も3つあります。1つ目は「テレビCMの代替を目指す」こと。今後、企業はますますテレビCMにかける予算を削っていくでしょう。テレビCMを制作するような大企業に対し、ドコモのコネクションや営業力で、ライブ配信を起点とするデジタル広告の運用手法をアプローチできるのではないかと。
2つ目は、先ほども言及しましたが「リテールDX」です。今の時代はデジタル広告配信の最適化が突き詰められ過ぎて、コストカットもクリエイティブ作成の工夫も限界に達しているように感じます。
例えば、クリエイティブに関しては、1つが大成功すると、代理店がそれを模倣してAI生成し各社に横展開するため、どれも似たり寄ったりの印象です。でも本来の広告のあり方は、その商品ならではの特徴や使用感、あるいは背景のストーリーを伝え、ユーザーの共感を促し購入してもらうことです。その原点に立ち返り、店頭で商品に触れてもらって購入を促すような仕組みを、ドコモのジオデータも活用しながら実現したいですね。
そして3つ目は、「中小企業も参加しやすいプラン設計」です。やはり、どこの企業も広告運用の費用対効果には敏感になっていますから、ライブ配信からクリエイティブ制作、広告配信まで一貫して割安で実現する仕組みを整えたいですね。
―最後にプログラムに参加した感想をお聞かせください。
松村:やはり、「ライブ配信を活用すれば、広告配信効果を最大化できるのでは」という私たちの仮説を柔軟に受け入れてくれたことが嬉しかったですね。今回のプログラムは「アイデアを実際のビジネスとして世に送り出す発射台になってくれた」感じです。
PoCに関しては、ドコモにプロジェクト予算の一部を提供いただけたので、顧客企業に大きく負担をかけず実施できた背景もあります。そもそもPoCが実現できたのも、ドコモというブランドの信用があったからこそ、とも言えます。
当社と同じく、スタートアップの皆さまは、もし機会に恵まれたらぜひ次回のオープンイノベーションプログラムに参加してみてはいかがでしょうか。次のステップへと進む道が、きっと拓けると思います。
(公開:2024年10月)