取り組み事例

まちづくりや地域経済の発展に一石を投じる、
全く新しい生成AIソリューション。
スピーディーなローンチの背景には、
ドコモとの共創に向けたチームワークがあった

株式会社ナイトレイ
株式会社ドコモ・インサイトマーケティング

  • 募集テーマ:モバイル空間統計の新たな活用方法の創出
  • 取材日:2024/09/19
株式会社ナイトレイ代表取締役の石川豊さん(写真中央)、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの加藤美奈さん(写真右)、鈴木俊博さん(写真左)

ドコモ マーケティングイノベーション部が取り組むオープンイノベーションプログラム。今回は最新ロケーションビッグデータを用いて、まちづくりや旅行者の移動・滞在傾向などを読み解くロケーションインテリジェンス事業「CITY INSIGHT」を提供する、株式会社ナイトレイ(以下、ナイトレイ)さまの事例をご紹介します。ドコモが2013年から提供するモバイル空間統計®と、ナイトレイさまが育んだ技術力を掛け合わせ、新たに共創された生成AIサービス「CITY INSIGHT Copilot」。その誕生の背景へと迫ります。
ナイトレイ代表取締役の石川豊さん(写真中央)と、ドコモ側のテーマオーナーとしてプログラムを牽引した株式会社ドコモ・インサイトマーケティング(以下、DIM)の加藤美奈さん(写真右)、鈴木俊博さんにお話を伺いました。

石川豊さんのプロフィール写真

石川 豊 さん

株式会社ナイトレイ
代表取締役

加藤美奈さんのプロフィール写真

加藤 美奈 さん

株式会社ドコモ・インサイトマーケティング
エリアマーケティング部

鈴木俊博さんのプロフィール写真

鈴木 俊博 さん

株式会社ドコモ・インサイトマーケティング
エリアマーケティング部長

  • コロナ禍の影響も共に乗り越え、
    築いてきたドコモとの信頼関係

    ナイトレイさまの事業概要について語る石川さん

    ―はじめに、ナイトレイさまの事業概要について教えてください。

    石川:現在事業の中心となっているのは、 「CITY INSIGHT」という人流データを活用したコンサルティング型のサービスです。これは、その地域に住まう方たちや、国内・国外の旅行者の方たちの移動傾向や滞在傾向を読み解き、まちづくりや観光対策、地域のDX化などに役立つ示唆を得られるサービスになります。

    元々は、訪日観光客の人流データを活用したコンサルティングサービスである「inbound insight」を2015年ごろから提供していました。さまざまな企業さまからご注目をいただき、会社の成長のきっかけにもなったサービスだったのですが、ご存じのとおりコロナ禍によって観光客数が激減し、サービス内容の見直しが必要になったんですね。そこから訪日観光客に限らず、国内のあらゆる地域の人流データを活用できる「CITY INSIGHT」の提供へシフトしていきました。

    ―なるほど。「CITY INSIGHT」や「inbound insight」では、どのように人流データの活用を行なっているのですか?

    石川:どちらも基本的には、SNSに投稿された情報を解析しています。もちろん、投稿した個人を特定するといったことは不可能ですが、SNSにある小さく膨大な情報を組み合わせて「解釈」する部分に、当社の特許技術を活用しています。その情報が投稿された場所や時間などのデータをはじめ、さまざまな情報を組み合わせることによって、特徴的な情報へと仕上げていくサービスです。

    ある地域には「どこのエリアから来た方が多いのか」や「来日が初めての人が多いのか、それともリピーターが多いのか」、あるいは「日本に来て何日目なのか」といった傾向が見えてきます。例えばですが「タイから来た観光客の方は、お寺を訪れることが多い傾向」といった、ただその場にいるだけでは分からない情報を得ることができるわけです。そういったまちづくりやイベント設計に有用なデータと、それに基づいたアイデアを得られるサービスとなります。

    ―ドコモとは2016年くらいからお付き合いされていたそうですが、どのように接点が生まれたのでしょう。

    石川:「inbound insight」を立ち上げた当時ですが、当社からDIMさんにお声がけをしてタッグを組ませていただいたのが最初ですね。DIMのモバイル空間統計に関わられている方たちにお声がけさせていただいて、非常に興味を持っていただくことができて。

    モバイル空間統計は、当然ドコモの基地局を経由した人流データになるわけですが、それと当社の解析に関する技術が組み合わさることで、これまで以上に正確で信頼性の高い分析を行うことができる。そこから「CITY INSIGHT」の立ち上げなどに至るまで、アライアンスを組ませていただいた形です。

  • ローンチに向けた戦略として、オープンイノベーションプログラムへの参加を決意

    ナイトレイさまとの取り組みについて話す加藤さん

    ―モバイル空間統計の技術を、ナイトレイさまに活用してもらいたいと思ったのはなぜなのでしょう。

    加藤:人流データの解析とそれを通じたさまざまなサービス提供を行なっている企業は、他社さんでも多くあります。ただ、ドコモのモバイル空間統計は、約5年間にわたる研究開発を経て、2013年から10年以上多くのパートナー様の事業運営に伴走し続けております。

    長年の研究ノウハウと、約8900万台のご契約数という膨大なサンプルがあり、国際ローミングの技術を活用すれば、海外からの観光客の方についてもデータを取得できる。業界の中でもかなり高い精度で人流データを捉えられるのがドコモのモバイル空間統計なんですね。

    一方で、そのデータをどう活用するのか?先ほど石川さんがおっしゃっていたデータの「解釈」の部分ですが、そこのノウハウは絶対にナイトレイさまに一日の長があります。ドコモが用意できるデータを最大限に有効活用してもらえるパートナーだったことが、当社としても共創を決断できた理由です。

    ―なるほど。では、そもそも共創の体制が出来上がっていた中で、ナイトレイさまが改めてオープンイノベーションプログラムに参加されたのはなぜなのでしょう?

    石川:コロナ禍の影響も薄くなってきた中で、当社としては「CITY INSIGHT」をこの先どのように進化させるのか?が課題でした。コンサルティングサービスという形ですと、どうしても金額的に高額になってしまったり、使う側のリテラシーも求められたりします。ユーザー層の裾野を広げていくためにどうしたらいいか考えたとき、今後はSaaS型で提供できるソフトウェアサービスの開発にもチャレンジしていくことを当社としての成長戦略のひとつにしました。そこから研究開発に着手したのが、生成AIを活用したソフトウェアサービスである「CITY INSIGHT Copilot」だったのです。

    ただ、現在は生成AI元年といった状況であり、技術の進化は本当に日進月歩です。そうなってくると重要なのはスピード感で、ローンチに向け少しでもスピードアップをしていきたいと思っているところにオープンイノベーションプログラムの話を耳にしまして。改めてDIMさんや、もしくはそのほかのパートナーと座組みを検討し直したりするより、このプログラムの枠組みに乗ってしまった方が、両者にとってスピーディーに事業開発を進められるのではないか、そう考えたことがきっかけでした。

    ナイトレイさまとの取り組みについて話す鈴木さん

    鈴木:ソフトウェアサービスにおいては、いかにユーザー数を増やすか、「拡大」の方向性を持って動き出すことが大切ですが、例えばドコモの営業網などを活用すればそこもスムーズに進められるでしょう。オープンイノベーションプログラムへの参加という形であれば、都度我々の側から評価をしながら、無駄なく開発を進めることもできます。お互い限られたマンパワーやリソースをいかに最大化するか?と考えたとき、非常に有益な形でスタートできたのではないか、と思いますね。

    ―両社にとって最も良い形でスタートできそうなのが、プログラムへの参加だったわけですね。肝心の「CITY INSIGHT Copilot」とはどのようなサービスなのでしょう?

    石川:「地域の人流がわかるAIブレストパートナー」と銘打っていますが、Slackをベースにして、チャット感覚でブレストができる生成AIサービスになります。今、本当にたくさんの類似サービスが登場していて、アイデアの壁打ち相手として活用されている方も多くいらっしゃいますが、世の中に「モバイル空間統計」の膨大な滞在人口データを活用できるAIサービスは、「CITY INSIGHT Copilot」のほかにはないわけです。門外不出のドコモのデータ、通常では参照できないようなものを参照しながら事業課題の解決につながるアイデアを高速かつたくさん出してくれる。そこが最大の強みであり、特徴ですね。

    なぜこのようなビジネス企画や課題解決アイデアが有効なのか?といった疑問を裏付けするデータも提供してくれるので、例えば新たな企画を上申したり、提案する際の時間削減につながり、非常に使い易いものになっています。

    地域の人流がわかるAIブレストパートナー CITY INSIGHT Copilot 特徴 ①生成AIに日本国内全域の人流データを読み込ませ、まちづくりなどに関わるアイディアをスピーディーに。 ②既存サービスでは得ることが難しかった示唆や傾向分析、具体的なアクションプランなどもOK。 ③生成AIや人流データに関する専門知識、データ分析スキル無しでも、簡単に得られる。
    「CITY INSIGHT Copilot」による人流データ分析の流れ ①SNSに公開投稿されたデータから個人関連情報をナイトレイの独自技術で削除 ②SNSの位置情報をもとにして、属性情報の解析を実施 ③ドコモ・インサイトマーケティングが提供するモバイル空間統計データと統合 ④統合データをもとに分析結果やアクションプランをSlack対話型UIで提供

    ―確かに。地方自治体など、決裁者が多そうな環境で働かれている方たちなどにとっては、心強いサービスになりそうですね。

    石川:まさに、官民問わず地域経済の発展に関する仕事に携わるビジネスパーソンなどが「CITY INSIGHT Copilot」のメインターゲットです。こういった方たちの中でも、トップ層に位置する方は既にコンサルティングサービスや高額な分析ツールなどを利用されている場合が多いのですが、まだそこまで踏み込めていないような大多数の方たちにとっては、費用感としても非常にチャレンジし易く、気軽に利用できるものになっています。

    オープンイノベーションプログラムを通じて開発に取り組めたおかげで、企画から1年足らずと非常にスピード感を持ってローンチまで進められたことは狙い通りでした。ローンチ前のPoCでクローズドのベータテストも実施したのですが、非常に期待をいただけている声を収集でき、開発に弾みがついたように思います。

  • モバイル空間統計を活用し、
    唯一無二の生成AIサービスを目指す

    笑顔で話す鈴木さん(左)、加藤さん(中央)、石川さん(右)

    ―オープンイノベーションプログラムにおいては、どのような役割分担をして進められていったのでしょうか。

    加藤:基本的にはDIMがメインになってファシリテーションをしていきました。例えば市場や顧客のニーズについての分析や、そもそも「ドコモの保有するデータを生成AIサービスに利用して問題ないのか」といったリーガル面、技術的な部分のフィジビリティなど、細かなところまで密に議論を重ねていった感じです。

    石川:そういったビジネスにおける泥臭い部分、私たちだけでは後回しにしそうな部分をしっかりと整理しサポートしていただき、一つひとつプログラムの中で解決できたことが、ローンチのスピード感に繋がったと思います。プログラム自体は半年間ほどの取り組みでしたが、その間に交わした議論が、ローンチに向けた残りのプロセス消化に本当に活かされた実感があります。改めて、共創のパートナーとして心強さを感じましたね。

    ―最後に、「CITY INSIGHT Copilot」に関する今後の見通しや目標などあれば、教えてください。

    加藤:生成AIは非常に新しい領域です。日々進化するこの技術と、モバイル空間統計の技術が組み合わさったらどうなるのか?という議論は以前からDIMの社内でもあったんです。そういった状況でナイトレイさまのような高い技術力とノウハウを持った企業さまとご一緒でき、私たちの事業のさらなるステップアップに向けて、非常に明るい見通しができたように思います。

    鈴木:まだまだスタートラインに立ったばかりのサービスですが、これからさらに幅広いお客さまに使っていただいて、アクティブにユーザーの裾野が広がってほしいですね。モバイル空間統計のデータを扱える専門家がいなくても使える、いわば「技術の民主化」の第一歩になってもらいたいと期待を寄せています。

    石川:とにかく日々進化、開発あるのみという感じです。投資を続けて、さらに良いサービスに仕上げていくこと。地道かもしれませんが、直近に関してはそこが目標であると言えます。「技術の民主化」のお話がありましたが、「CITY INSIGHT Copilot」は、toBのサービスとしてだけでなく、toCのサービスとしても可能性を秘めています。いつの間にか社会のインフラとして浸透し、世の中が便利になっている。そんな未来が到来したら最高ですね。

    オープンイノベーションプログラムにおいて、当社の場合は少し特殊なケースかもしれません。しかし、共創にむけた議論が、型にとらわれず柔軟にできることの証左でもあります。プログラムに参加したからこそ、自分たちだけで考えていたのでは出てこなかった発想が出てきたり、後回しになりがちな制度やリーガル、ロジ周りに対してサポートしていただけたりと、スピーディーなサービスローンチの土台が整ったのだと思います。広い視点や高い視座からのアドバイスのおかげで、自分たちのサービスの将来に向けた広がりも実感できました。改めて、お礼を申し上げます。

    (*)モバイル空間統計は株式会社NTTドコモの登録商標です。

株式会社ナイトレイ

2011年創業、2015年に訪日外国人分析支援サービス「inbound insight」をリリースし、同年にはドコモ・インサイトマーケティング社と業務提携するなど創業時より大手企業との業務提携を行いながら取り扱いデータの多様化を進め、日本国内の人々の移動/周遊傾向を分析してきた多数の実績を持つ。現在はレポーティングや解析データ提供を行う「CITY INSIGHT コンサルティングサービス」をメインに提供しつつ、2024年にモバイル空間統計を含む人流データと生成AIを組み合わせた新サービス、地域の人流がわかるAIブレストパートナー「CITY INSIGHT Copilot」をリリースし、新たなサービス展開にも注力している。

オフィシャルサイト 

(公開:2024年11月28日)